day dream

day dream見て生きるのが幸せ。でもそれだけじゃダメなのよ、現実だからね。

「エピデミック」新型ウィルスを追い詰めるのは、疫学という探偵。(川端裕人)

■新コロナウィルス渦に疲れてしまった人へ

この作品は、ぜひ新コロナウィルス渦の中、疲れてしまった人に読んで欲しい。

ほとんどの人が、突然テレビからマスク、手洗い、行動自粛などの要請され、言われるがまま従っていたのではないでようか?

基本的なことは、何も知らされず。

 

世界中に新コロナウィルスが蔓延している現在でも、実際、ウィルスについて、ちゃんと理解している人は、どのくらいいるのでしょうか?

  • そもそもウィルスとはどんなものか?
  • なぜ危険なのか?
  • どこから来たのか?
  • どのようにして広がっているのか?
  • どのような工程で、ウィルス封込めをするのか? 

この作品では、未知のウィルスが広まり、パンデミックになっていく工程、またそれを防ぐための人間側の対策(疫学)が小説仕立てで、学ぶことができます。

 

テレビで、あれダメ、これダメ、それは良い、とか毎日コロコロ言われ、言われるがままの生活は疲れます。ぜひ、この作品読んで、自分で判断して行動起こすようにしましょう。

■新コロナウィルスを予言した書

この作品は、2007年出版。

作者の川端裕人は、元々ノンフィクション作家。

やがてノンフィクション作家としての取材経験から、それらを題材から小説を書き始めます。

その魅力は、作品ごとに時代の旬となるテーマで書かれていること。

2000年前後の時点で、金融世界(リーマンショックを予見?)や、自作ロケット(ベンチャー企業のロケット開発を予見?)、新しい動物園の形態(その後、旭山動物園という新しい動物園ができた)、ネットゲーム(このころネットゲームはマイナー)、ニコチン(電子タバコ)など。
作品を読むたびに、自分の世界が広がるのが楽しい。

■あらずじとか、テーマとか。

東京近郊のとある農業と漁業の町に、インフルエンザ患者が発生、重症化して肺炎を引き起こし死亡した。
死亡したのは、若年や壮年の患者、それは通常のインフルエンザでは起こりえない症状だった。
検査結果ではインフルエンザだった。しかし本当なのだろうか・・・?

不信を抱いた現地医師から連絡を受けて現地に立ち寄ったは、国立集団感染予防管理センターの隊員、島袋ケイト。
彼女の専門は、フィールド疫学。
SRASでも感染源を特定し、感染拡大を不正が実績があった。


この不穏な始まりは、まさしく新型コロナウィルスパンデミック

 

パンデミックを防ぐため、「疫学」探偵が活躍する!
(もしくは未知の病原体を特定することの難解さ)

ウィルス感染などの伝染病では、「疫学」(エピ)という学問があります。
コレラ菌が始まりで、1883年。
そして実際にコレラ菌が発見されたのは、1890年。
 
そう、本来の疫学は病原菌が特定されなくても、感染拡大を防げるのです。
感染元を特定するのに、顕微鏡は使用しません。
感染した「時間・場所・人」を収集し、感染の「可能性」を絞っていく。
 
そう、まさしく探偵の推理です。
状況証拠だけで犯人を追い詰めていく探偵。
極論いうと、疫学では、感染源のウィルスでさえ、特定しなくてもよいということ。

「非科学的だな」
「フィールド疫学者はそこのところ、無節操にできます。」

面白いのは、感染源を知るための方法論として「オッズ」というものがあります。
競馬などでおなじみのものです。
各要素の組み合わごとに、感染の可能性を数値化する。
それでジワジワと「蒙昧さの霧を蹴散らして、可能性を限定する」のです。

そして、疫学のゴールは、感染源のウィルスを特定することではありません。
特定した可能性の「元栓を締める」ことにあるのです。
元栓は、ヒトに感染させたモノ。
水でも植物でも動物でも、元栓になりうります。


■身近な出来事でフィールド疫学やってみる

例えば、旅行先で、腹を壊す人が続出している。
いったい、何が原因なのか?
という例で、フィールド疫学ぽい思考テストやってみましょう。

 
①腹を壊した人の共通点を探す。
→同じに店に行ったことがわかる。
 
②でも、同じ店に行っても、お腹壊していない人もいる。その違いは何か?
なにを注文したのか確認する。
→注文した品は、バラバラだった。
 
③それでは注文したものを分類しよう。
→腹壊した人は、冷たいドリンクを注文している共通点があることがわかった。
 
④では原因は水か?
→いや、水はミネラルウォーターを使っていることを確認した。
 
⑤それでは、冷やししている氷なのでは?
エウレカ
 氷でした!氷はミネラルウォーターでなく、水道水でつくっているとのこと。
 
⑥それでは、氷の入っているものは注文しないようにする!
 (これが元栓を捻る、ということ。)

というように、状況証拠で原因を追求し、原因となるものを避けるようにする、というイメージです、
(ちなみに、上記は実話ですw)
 
その際、腹を壊した水道水の成分なんかは、わからなくて良いのです。
その店の氷を摂らなければ、もうそれ以上、被害は広がらないのですから。
このように、フィールド疫学は、非常にアナログな作業です。
でも無数の可能性から、ただ一つの可能性に絞っていく作業は、非常に高度な作業でもあります。
 

■そもそも、新型ウィルスのパンデミックとは、何を意味するのか?

ここで、ちょっと新型ウィルスのパンデミック、ということについて考えてみたいと思います。
そもそも、新しい不明のウィルスが出現し、それが人間に感染し被害をあたえるとは、なにを意味しているのか?
(今回の新型コロナウィルスは、武漢のウィルス研究所から人工的につくられたとか、いないとか、所説あるが、それはこの際、些末なことでしかない。)
 
「ウィルスは生態系の構成員であり、またある種のウィルスにとっては人間とは生存の場、つまり「環境」だ。
ウィルスは、文明という繭の中で安穏とする人間を、生態系に対して剝き出しにする」
 
感染症とは、ただ病気であるだけでなく、生態系の問題なのです。
ぼくたちはみな、環境の一部であり環境そのものなのだと自覚しなけばいけない」
 
ウィルス感染は、自然環境の砦として、人間が安全を確保した都市を、やすやすと破ってくる。
ある意味、地球上の生き物の頂点となった人間に対して、牙をむけれる生き物は、ゴジラかウィルスぐらいのものでしょう。
要は、新型ウィルスのパンデミックというのは、単なる病気なのではなく、
環境問題なのです。
よって、環境問題自体が改善されない限り、第二第三のパンデミックは、常に発生する可能性があります。
 
よく考えたら、少し前も、世界は温暖化という環境問題で揺れていました。
そのように考えると、結局のところ世界は一貫して環境問題という問題に直面しているのではないでしょうか?
 

■そして、読後に気になったこと

読み終えて、ひとつ困ったことがある。
小説内のパンデミックは収まっても、現実世界ではまだ終わっていないのである。
(悪夢うなされて目が覚めたあとも別の悪夢の中だった、みたいな気持ちの悪さ。)
 
だが、現実の新コロナウィルスのパンデミックでは、まだ解決していないことがある、
疫学でいう元栓をまだ締めていない。
 
ここでいう元栓とは、以下を示す。
①発生した場所
②ヒト感染したルート(動物)。
 
結局のところ、元栓を締めないことには、ロックダウンでヒトーヒト間の感染が収まっても、また第2第3のパンデミックが発生する可能性があるのではないでしょうか?
その場合、疫学探偵となれる人材がこの国にどれだけ存在するのか?
 
 

■まとめ

長文、お付き合いありがごうございました。
本作は、2007年に出版後、長らく絶版?になっていましたが、新コロナウィルスのため、復活しました。
この機会に、是非一読してはどうでしょうか?
●電子版
エピデミック (BOOK☆WALKER セレクト)

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 ●文庫版

エピデミック (集英社文庫)

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  • 作者:川端 裕人
  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: 文庫
 

 

おまけ(作家の川端裕人さんについて)

作者の川端裕人ですが、興味深いテーマで、一作一作と異なる作品をか書いています。
ほとんど2000年代前後時書かれた作品ですが、今読んでも古くなく、
また出版後の出来事を予見していたりと、とても興味深いテーマばかりです。
沢山ありますが、とりあえず読んだものだけ。

「リステイカー」
:金融世界でのし上がる青春小説(リーマンショックを予見している?)
「夏のロケット」
:自作ロケットテーマの青春小説(ベンチャー企業のロケット開発を予見している?)
「動物園にできること」
動物園内における動物行動。旭山動物園という新しい動物園ができましたね。
「The SOUP」
:ネットゲームを舞台にしたサイバーテロ。ネット内での第二の世界という概念が斬新でした。
「ニコチアナ」
タバコとして吸われているニコチン。その歴史を辿る。電子タバコまで受け継がれるニコチンとは?
「はじまりの歌をさがす旅」
:オーストラリアの原住民、アボリジニーにつたわる「ソングライン」とは?